穏やかに、緩やかに。
　冒頭の美しいアルペジオに誘われながら至福の時をおくること、59分39秒。
　音に包まれるのが、これほど心地よいとは思いもよらず。
　情報量の少なさに安堵の胸をなで下ろす、午後。
　安直で下世話なヒーリング・ミュージックなどとは一線を画す、インストゥルメンタル作品。

　ドイツのヒッピー・コミューン発、狂気に満ちたファースト。
　そのアルバム・タイトル に嘘偽りなく、狂った地獄絵図が繰り広げられる。
　執拗に反復する リフ とパーカッションに重なるように幾多の人間が叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。
　まるで何かに助けを求めるようにして。
　正気が狂気か、悪夢のような最狂盤。

　バルカン半島に根ざした民族音楽を基盤にした超絶ジャズ・ロック。
　デメトリオの変態歌唱はいうに及ばず、バックを支える楽器隊演奏も素晴らしく高度だ。
　高速でめくるめくように繰り広げられる変拍子の力強さ、その躍動感。
　思い浮かぶのは浅黒い肌、油汗、逞しい髭。
　彼らこそ貧民層が大部分を占める南イタリアの誇りであり、その象徴である。